遺言書5 公証役場が辛かった。。。
<2019年5月3日 私より娘へのレター>
いよいよ万難を排して公証役場へ行く日がやってきました。
ここまで根気よくおじいちゃん(父)への説明と、度重なる公証役場への日程調整を行ってくれた司法書士さんにはほんとうに感謝です。。。
遺言書は公証人により内容と本人の意思が確認されて初めて有効になります。
ですので、この最後のプロセスが一番大事。
平日の予約でしたので、有給休暇を取得し、朝から実家に立ち寄り、最寄りの交渉役場で司法書士さんを合流するという段取りです。
朝からおじいちゃんに対し「もう一度、内容を説明するから、公証人から確認を受けたら、ちゃんと意思表示してくださいね」と念を押し、おじいちゃんからも「大丈夫、分かっているよ」と心強い返答を受け、交渉役場へいざ出陣!
公証役場内に足を踏み入れると、想像するほどの大きなオフィスではなく、ワンフロアに受付と事務職員の席があり、一角にパーテンションで区切った小部屋があるだけです。
ちなみに公証人との面談には相続人(=私)は同席できません。
相続人が同席することで、被相続人への思わぬプレッシャーを与えないようにという配慮です。つまり悪質な相続人が同席し、横からにらみを利かすなどしてしまうと、被相続人の意思に反した遺言書に署名してしまうかもしれません。
部屋には「公証人」1名と「証人」が2名。証人は、これからの公証人とおじいちゃんとのやり取りを見る、第三者的な証人となります。証人は家庭裁判所裁判官のOB/OGで、家庭でのいざこざや、その問題解決のエキスパートです。
ということで、司法書士さんに連れられたおじいちゃんをパーテンション内に送り入れ、私はすぐ前にある長いすで待機するのですが、これがまた中の声がまる聞こえ。。。。
聞こえてくる会話が。。。
公証人:では遺言書を読み上げます。
父:ちょっとまってくれ、これは何をしようとしてるのか?
司法書士さん:息子さんとお話ししていた遺言書ですよ。最終版は一緒に確認しましたよね?
父:息子(=私)と一緒に聞くことはできないのか?
公証人:相続人は残念ながら同席できません。
父:そうか。。。
公証人:それでは読み上げます。うんぬんかんぬん。。。
父:ちょっと待ってくれ、こんな内容の事を書いてくれと俺が言ったのか?
司法書士さん:はい、ご指示に従って書きました。
父:息子は知っているのか? どこにいるんだ?
公証人:相続人は残念ながら同席できません。
父:ちょっと、息子と話をさせてくれないか。。。
もちろん、しーんと静まり返った受付では、この会話は筒抜け。。。
頭を抱える私を尻目に、事務職の女性たちのほとんどがクスクスと。。。
はっ、恥ずかしい。。。。
司法書士さんと一緒に出てきたおじいちゃんは、不満と言うよりも知らない方たちに囲まれて不安そうな面持ち。
再度、私の説明を聞いて納得し、パーテンションの中に戻るのでした。。。。
すると、また「こんな話は聞いてない!」的な会話が繰り広げられ。。。
事務職員にはクスクスされ。。。
またおじいちゃんは出てきてしまい、私は説明し。。。
3回目にしてようやく、おじいちゃん、公証人の説明に合意し、署名をしてくれました。。。
この儀式が終ると、全員晴れやかな顔をしてパーテンションから出てきました。
公証人はニコニコ顔で「確かに内容とお父様の意思を確認しましたよ」と一言。
続いて出てきた証人2人のおばちゃん達もニコニコ顔で「良かったですね。無事に終わりましたよ」と。
今回ばかりは、おじいちゃんの状態を鑑み、遺言書案は無効になるかと思いましたが、こうしてきちんと終わってしまって、正直、びっくりでした。
パーテーション前の長いすで、クスクスの中、「あぁ、これで今まで数ヵ月掛かって成し遂げたプロセスはパーだ。。。」とか、「司法書士への費用、公証人、証人への謝礼もパーだ。。。」とか、「家に帰ってかみさんや叔母、姉になんて説明しようか。。。」とか、「なんだかおじいちゃんに悪いことしなぁ。。」とか、グルグル考えていたのですが。。。
やっぱり聞いてみると、こういう状況も「公証役場あるある」とのことでした。
どうりで受け付けの事務職員たちも楽しそうに笑っていると思った。。。
てっきり親不孝な息子に対する「冷笑」と思っていたのですが、どうも同情を伴った「失笑」だったようです。
あー、恥ずかしかった!
おじいちゃん、恥ずかしかったじゃないか!
ちなみに公証人への謝礼は5万円程度、証人への謝礼もそれぞれ1万円程度だったかと。
証人のお二人に謝礼の入った封筒を手渡すと、「この謝礼金は交通遺児の教育費や生活費に寄付いたしますね」とのこと。とても素敵な仕事をなさっている方々だなっと感心してしましました。
家庭裁判所のOGとのことなので、こういったおじいちゃんの状態、我々のこれからの介護の予定、遺言書の内容など、家庭裁判所での争議の経験からも瞬時に正当かどうかを判断できるのだなっと、心底感服いたしました。
いつか私も証人のようなボランティアをやりたいものです。。。
ということで、正式に遺言書が完成し、写しをとって姉にも共有し、全ての作業がコンプリートしたのです。
これで、私達夫婦も「おじいちゃんの介護をこれからしっかり担うんだ」という心構えがきちんと仕上がったというか。。。
なんだか一種、晴々とした気持ちになれたのでした。